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改革の全面的深化と一体となった中国の法治への改革

発表時間:2015-03-10 | 字体拡大 | 字体縮小

著者:吉田 陽介 | 出所:

 はじめに

 すでに多くのメディアが詳報しているが、1020日から23日まで開かれた中国共産党第18期中央委員会第4回全体会議(以下4中全会と略)は、「依法治国(法によって国を治める」を掲げ、法に基づいて物事を処理することを強調した。これまでの四中全会は主に党の建設問題がテーマであったが、今回は司法改革をも含む法治国家の建設を目標に掲げた。

4中全会で採択された『依法治国の全面的推進の若干の重大問題に関する中共中央の決定』(以下4中全会「決定」と略)で何度も出てきた「依法治国」は何も新しい言葉ではなく、1997年に開かれた第15回党大会ですでに登場していた。同大会は「中国の特色ある社会主義を建設することは、ほかでもなく中国共産党の指導のもとで、人民が主人公になるということを踏まえ、『依法治国』によって社会主義民主政治を発展させることである」とし、「2010年までに中国の特色ある法律体系を形成する」という目標を立てた。

その後の党大会においてもほぼ同じ主旨のことが謳われている。 今回の四中全会でなぜ「法治」を強調したのであろうか。それは中国共産党が今後改革を進めていくための政治的・法的基盤を築くためであると筆者はみているここでは中国共産党が掲げる法治がこれからの改革にいかに関わってくるかみてみたい。 

一、改革と法治建設の関係

新中国成立後、初期の頃は『共同綱領』という暫定の憲法があり、1954年には憲法が制定されたものの、その後専制的社会主義の方向に向かい、指導者個人の言葉が法に優先するようになり、「人治」の要素が色濃かった。

文化大革命が終わってから、中国は改革、特に経済面での改革へと舵を切った。改革を進めるにあたっては、法に基づいて国を治めることが必要である。鄧小平もこの点を認めており、改革開放への転機となった197812月に開かれた第113中全会コミュニケでは、社会主義現代化を進めるには、集中した統一的指導が必要だが、民主もなければならず、人民民主を実現するために、社会主義法制が必要であり、法の権威を確立しなければならないと述べた。

1987年に開かれた第13回党大会の報告は、本格的な政治改革の必要性を述べており、「社会主義民主政治は社会主義市場経済と同じように、徐々に積み重ねていく漸進的プロセスである」と述べ、政治面、経済面での改革は両輪で進めなければならないと述べている。

このように、改革開放が行われてから、市場経済を取り入れた経済改革を推進したが、

伝統的な社会主義理論が教えるように、「市場経済=資本主義」であり、無政府性を帯びているので、秩序ある競争に導くためのルールを設ける必要がある。そのため、政治面での改革をも強調し、法体系整備の重要性を訴えた。

法治の重要性が認識されていたものの、現実には法治の方向にはいかなかった。第113中全会以来、社会主義市場経済の発展に合わせて『民法』、『刑法』、『民事訴訟法』、『刑事訴訟法』、『行政訴訟法』などの法律ができ、法律体系は基本的に整備されたが、法律があっても守られず、機能しないという問題があった。前述のように、第15回党大会で「依法治国」が提起されても、なかなかその方向にいかなかった。それにはいくつかの原因が考えられる。

まず第一に、長く続いていた「人治」の影響が考えられる。毛沢東時代は、法律が確かに存在したが、中国革命を成功に導いた毛沢東、周恩来、鄧小平らは絶対的な存在であった。そのため、彼らの中でも中国共産党の頂点に立っていた毛沢東の意向は絶対で、それに異議を唱える者はいなかった。大躍進後、毛沢東に対する個人崇拝が進んでからは、法よりも指導者の意向がさらに重視され、文化大革命では革命運動が重視されて既存の国家機構や法律体系が破壊された。改革開放路線に転換して30余年、党内に絶対的カリスマが君臨していないものの、引退した幹部の発言が重みをもってくるなど、人治の影響はまだ残っているといえる。

第二に、人々の法を守るという意識がまだ薄いという点である。第一の点と関係するが、社会全体が人治の影響が大きいこともあり、人々も法律に基づいた手続きを踏んで物事をするのではなく、地位の高い知り合いに頼むという考えをもっていた。それが腐敗の温床になったのは言うまでもない。

また、中国には「上に政策があれば下に対策あり」というあまりよくない言葉がある。中国の社会にも多くのルールがあり、それらを守るよういわれているが、人々は何とかして抜け道を探そうとする。例えば、職場で新しい規則ができたとする。「法治」が徹底しているなら、何も言わずそれをきちんと守るのが常識だが、そのようには動かず、何とか担当者と話をつけて便宜を図ってもらおうとする。これは法治意識がまだ人々に浸透していないことを表している。この状況を変えるべく、第18回党大会では、このような傾向は絶対に許されないとして、是正する必要性を述べた。

第三に、政治面での改革が遅れたという点である。改革開放路線に転換してからは経済面での改革が進んだが、政治面での改革は必要性を強調されながらも、進まなかった理由は計画経済時代に形成されたシステムの改革が遅れたことによる。この体制の下では、官僚化が進み、既得権益層が形成されやすい。改革の必要性が叫ばれながらも、既得権益層の利益を侵す改革はできず、既得権益に関わる法律は執行しないようにするといったことがおき、法治社会の建設が阻まれた。現在、習近平指導部はその弊害を取り除くべく反腐敗運動を繰り広げたのである。

以上のような原因があって、中国の法治はなかなか進まなかったが、習近平指導部発足後、全面的な改革の深化が謳われ、法治に舵を切ったのである。 

二、4中全会の「決定」は何を目指すか

 4中全会終了後に発表された4中全会の「決定」は「法治」という言葉を50回以上も使っており、提起されている改革は実に180項目にも上る。「決定」は主に中国の特色ある法治体系の構築、党の指導、党内法規について、法治国家を支える司法分野の改革などが提起されている。「決定」に一貫して貫かれている理念は「中国の特色ある法治体系の構築」である。先ほども述べたように、「中国の特色ある法律体系」はすでに出来上がったが、それらがうまく実施されていない。そのため、4中全会「決定」では「法律の生命力は実施にあり、法律の権威もまた実施にある」とし、法律を確実に執行するための改革進めていき、あわせて法執行の主体の職権濫用や腐敗を戒めた。

また、行政機関が握っている権力がオープンな形で運用されること、政務情報の公開などを提起するとともに、中国の特色ある民主制度である「協商民主」がきちんとした手続きを踏んで実施されることも提起している。

「決定」がこの背景には、まず人々の「公平」に対するニーズが挙げられる。昨年開かれた3中全会前に中国メディアが行った調査でも「社会の公平」への関心度は上位に入っていた。改革開放30余年で、年平均二ケタの経済成長を遂げ、人々の生活水準は著しく向上したが、その反面、格差が開いた。公務員や国有企業職員と一般市民との待遇の格差や出身戸籍による差別などが存在し、特に社会の底辺にある人々の不満は高まっている。また、「人治」の影響もあり、政府の指導幹部と普通の市民が同じ罪を犯したとしても、前者のほうが判決に手心が加えられたために罪が軽くなるといった不公平なこともあるので、「決定」では「法の下にみな平等」であるという文言がある。

次に、権力を制約するために、社会の監督を強化する必要があることが挙げられる。これは習指導部が発足以来行ってきた反腐敗活動と関係がある。反腐敗が始まった当時、インターネット上に腐敗幹部が腐敗に手を染めている生々しい映像が流され、メディアが大々的に取り上げたが、これは社会の監督の一形態である。これまでは、権力が肥大化した一部の指導者を社会は監督できなかった。しようとしても、強大な権力で握りつぶされた。メディアが発達し、人々がものを言えるようになった現在、権力の制約と社会の監督は共産党政権にとって大切な課題である。

さらに、人々の政府の透明度へのニーズもある。これまでは、政府の行う仕事に対し人々は「お上のやることだから、私は聞くだけ」という態度であった。以前は、人々の接する情報量は限られており、政府のやることに対しては疑う余地は少なかった。しかし、インターネットの発達により、人々は世界の情勢についての情報を容易に手にいれることができ、また人々の食品や生産の安全に対するニーズも手伝って、透明度へのニーズも高まっている。そのため、政府の会計情報やその他の情報の公開に向かっている。

以上の背景はすべて「人民大衆の利益」を基礎においたものである。これは中国共産党のよい伝統である「人民に奉仕する」という精神を体現しているものである。

では、4中全会の決定が示した方向性とはいかなるものか。

第一に、「憲法の権威を守る」ということである。この目標自体は去年開かれた3中全会でも提起されている。これまでは「人治」、「党治」というように、指導者個人または党が超法規的存在であったが、社会のいかなる勢力も憲法の基本原則を遵守ることが述べられている。ただ、これは改革派がよく提起している「憲政」とはまた異なり、「党の指導」という但し書きがある。

第二に、社会全体の法意識の確立である。先ほどの背景でも述べたように、まだ社会全体で法律を守ろうという意識も確立していないし、法を執行する主体も完全に執行しているとはいえない。そのため、4中全会「決定」には「法の生命力は実施にある。法の権威もまた実施にある」という言葉があり、指導者の裁量で物事を処理するのではなく、法律に基づいて処理することである。

第三に、党自身にも法意識を定着させるということである。中国では党が絶対的な超法規的存在であり、それを取り締まるものがない、とよくいわれる。確かに、国政運営において党の指導が必須となっているため、その権力の運用に対する監督が働かない。それが、幹部による権力濫用、腐敗につながっている。そうした状況を受け、習指導部は「権力を制度のオリに閉じ込める」とし、反腐敗を行ってきた。党内法規はその制度化の一環である。党内法規自体は1938年に毛沢東が提起したことであるが、この考えをまた持ち出したのは、党の中でも法規に基づいて物事を処理し、党の「自浄作用」を高める狙いがあると思われる。

第四に、法の守り手としての司法部門を改革することである。これまで司法部門は権力者からの圧力によって、判決がねじ曲げられたり、司法部門に権力が介入したりすることもあった。これまでも独立的に権限を使うことがいわれていたが、今後はその傾向がさらに加速するであろう。また、裁判を中心とした紛争解決の仕組みの整備も進めるとされており、法治を進めるうえで司法部門の果たす役割は大きい。そのため、司法部門に所属する人たちの職業的保障も必要で、司法関係の人材の育成もさらに進むだろう。

 現在、中国共産党が法治国家の建設を目指しているのは、183中全会で提起された改革を着実に進めるためにぜひとも必要である。次は、それについてみていきたい。 

三、両輪で進む改革の全面的深化と4中全会の改革

 昨年11月に開かれた3中全会で採択された『改革の全面的深化における若干の重要問題に関する中共中央の決定』(以下3中全会「決定」と略す)では、経済改革を中心に多岐にわたる改革メニューが出された。経済に関する改革についていえば、その理念は「資源配分において市場に決定的な役割を果たさせる」ことで、つまり市場経済の役割をさらに発揮させた改革をさらに推し進めるということである。

3中全会「決定」には、「公平・オープンで、透明性ある市場ルールをつくる」という目標があり、「統一した市場参入を実施し、制定された『ネガティブリスト』をもとに、それぞれの市場主体は法に基づいて平等にリスト以外の分野に入ることができる」としており、そのためには市場主体公平な競争を促す法律の整備が必要である。

現在、市場秩序を守る法律としては、『反独占法』、『反不当競争法』、『価格法』などの法律がある。これらは秩序正しい市場競争を促し、公平な競争に導くことを念頭に作られたが、まだ完全なものとはなっておらず、さらなる整備が必要である。

また、3中全会は国有経済、集団経済、非公有経済をともに発展させる「混合所有制」の発展を目指しており、その前提として「財産権保護制度を充実させる」ことを提起しており、「帰属がはっきりとしている、権利と責任が明確な、厳格に保護される、移転がスムーズな現代財産権制度の整備を行う」とされている。現在、中国には『民法通則』、『契約法』、『物件法』があるが、まだ所有権の保護はまだ遅れており、一部では国有資産の流失といった現象も起きている。

市場秩序および財産権の保護に関する法律の整備と人々の法治意識の向上は、市場におけるプレイヤーが何の心配もなく競争し、中国の社会主義市場経済を「バージョンアップ」させるうえで必須の条件である。

次に、政治面に面を転じてみよう。3中全会「決定」では、「全国人民代表大会が時とともに進むことを推進」することや「協商民主の幅広く多レベルにわたる制度化の発展」などのほか、権力の運用についても言及している。協商民主を発展させるには、その手続きの一定のルールに基づいて行われなければならないし、権力をオープンな形で運用するにも法的根拠が必要とされる。そのため、今回の4中全会は、このような改革を実現させるための道筋をつけたと考えられる。

3中全会の「決定」には、そのほかに文化体制の改革や生態環境の保護について、軍隊の改革などについても言及されているが、これらの改革を推し進めるにも一定のルールが必要で、そのためには関連の法体系の整備、法治意識の確立が重要となってくる。 

おわりに

3中全会以降、中国で政策関係の文章にはよく「落実」(貫徹・実行)という言葉が見られた。これまでにも中国共産党は多くの政策を立案したが、それが貫徹・実行されたとは言いがたかった。そのため、人々は「共産党はいいことを言うけど、行動が伴っていない」といっている。筆者のみるところ、現在中国の「法治国家建設」は、すでに構想自体は打ち出され、実行されてはいるものの、まだ本格的とは言いがたい。ただ、現在はものを言うようになってきているため、改革の成果が実感できなければ、人々の支持を失ってしまう。そのため、今後は本格的に「落実」段階に入るのではないかと思う。人々の意識を変えるのは、短期間ではなしえないので、法治国家建設は、長期的な取り組みとなるのではと考える。この改革がなしえたならば、中国の経済・社会は「バージョンアップ」を遂げるのではないかと思う。

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