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市場の秩序と政府の役割

発表時間:2012-09-25 | 字体拡大 | 字体縮小

著者:樊綱 | 出所:経済産業研究所

 

    一、 所有権の保護、法治と市場秩序の維持が政府の主要な役割である   

  政府の役割は、自分の財産と利益を守るのではなく、民衆の財産権や利益を保障することにある。また、企業を作り出し、それを管理することより、企業が順調に発展できるような市場環境を作ることは、政府のもう一つの役割である。中国における市場秩序の混乱の基本的な原因の一つは、政府が本来の役割-所有権の保護、法治及び市場秩序といった公共財の提供-などを軽視し、企業に対する関与、価格の設定、資源の分配といった本来政府が干渉すべきではない領域にまで関わっていたことに由来する。従って、市場秩序の混乱は、ある意味では、「政府機能に対する認識における誤り」である。

  この原理に基づくと、今後政府がすべきことは、できるだけ早く所有権改革を行い、国有経済に対する戦略的再構築を展開させながら、企業活動に対する管理を減らすことである。さらに、法治整備(立法と司法)を強化し、市場監督と管理により多くのエネルギーと資金を注がなければならない。

  法治と市場秩序を維持する問題の核心は、人々に何をすべきなのかを教える(行政指導や行政審査)のではなく、むしろ一部の人が、詐欺(信用の悪用あるいは虚偽の情報の提供)などの手段によって、他人の権益あるいは公共利益を損害することを防ぐことである。例えば、契約違反、債務不履行、知的所有権に対する侵害、特に民衆の健康を害し、また汚染を作り出すような生産行為などである。政府はこれらの問題に関係する立法、司法及び行政監督部門(例えば、商品検査部門)の整備を急ぎ、管理経済部門の権力と規模を縮小する必要がある。

  市場秩序を維持する根本的な方法は、法治を発展、そして維持することである。この点はわが国にとって、長期にわたる努力が必要である。現在、特に「法治精神」の樹立を強調すべきである。その内容の一つは、法律と政府の規則制度が、人が何をすべきのかを規定するのではなく、何をしてはいけないのか(例えば、公共的被害を与えること)を教えること、即ち政府は行政指導を動員し、人々の行動を誘導するのではなく、むしろ自己監督を通じて、何をしてはいけないのかを自ら発見することである。この手段だけに絞れば、政府の「行政指導」を根本から減らし、革新活動を大いに発展させることができる。また人々は、新しい未知な(特に政府が知らない)機会を求めようとするが、他人の権利を侵害する行為が抑制されるのである。

    二、 市場を規範するには、まずは政府を「規範」せよ   

  現在における「市場秩序」の混乱は、実は政府の制度とその運営の問題である。

  例えば、汚職や腐敗は、公の権利を利用し、私利を図ることと定義されている。腐敗が氾濫した基本的な原因は、わが国に公共財産が非常に多く、政府の権力が強大で、多岐に渡るため、腐敗の機会が増大されることにある。腐敗を検挙し、罰するコストも高いので、腐敗が蔓延したのである。従って、この問題を根本から解決する方法は、国有制の範囲を縮小させ、政府の権力を減らすことにある。もう一つの例を挙げよう。国有の食糧流通センターの職員が、市場で食糧を調達し、それを国家に転売し、価格差をもうける行為は、政府の価格に対する補助金制度にも一部原因があると考えられる。現在農民、企業の負担が重いという原因の一つは、政府が膨大で、機能が明白にされていないことに由来している。法治が不完全で、法律があっても守られていないのは、法律自身の不完全性以外に、司法プロセスへの大量の外部からの干渉と司法部門自身の腐敗などにも原因があると考えられる。

  つまり、以上のような現象は、「市場の問題」ではなく、「政府の問題」であり、現行政府の体制の問題である。こういった問題を解決するには、従来の体制内で政府の各部門が市場の経済活動に対する関与を強化するのではなく、むしろ今後徐々に政府行為を規範していくという方法が考えられる。 

    三、 良好な市場秩序を形成すると同時に、市場競争を大いに発展させよ   

  市場秩序を整備することは、「市場活動を禁止」することを前提とする秩序ではなく、市場活動の秩序を整備するのである。問題が発生した市場をすぐ閉鎖することによって、無秩序を消滅することは本筋ではない。例えば、米の品質に問題が発生するなら、それは商品検査所に問題があるのであり、米市場を廃止すべきではない。

  また、我が国はいまだに市場発展の段階が低く、市場秩序は非常に混乱しがちである。現在の市場秩序における混乱の多くは、市場競争が十分に展開されていないことに由来する。このような状況を変えるには、商人を取り締まるのではなく、法治を強化しながら、その枠の中で、市場の参加者を育成することが重要である。

  秩序がきちんとできてから市場が発展していくのではなく、むしろ市場の発展の中で、徐々に秩序を形成し、規則ができていくのである。この角度から見ると、われわれは、最初に問題を恐れるわけにはいかない。活発な取引がなければ、当然何の問題もない。しかし、それでは市場と経済の発展もありえない。問題が暴露した時こそ、規則を完全化する契機なのである。市場秩序は、まさしく問題が次々と明らかにされながら、改善されていくものである。これはどの国でも同じであろう。われわれは、こうした観点から市場問題に対応すべきであり、問題があったら、すぐに政府の規制を求め、取引を取り締まるような行為を繰り返してはならない。

  樊綱   Fan  Gang

    中国経済改革研究基金会国民経済研究所所長。1953年北京生まれ。文化大革命中における農村への「下放」生活を経て、78年に河北大学経済学部に入学。82年に中国社会科学院の大学院に進み、88年に経済学博士号を取得。その間、米国の国民経済研究所(NBER)とハーバード大学に留学し、制度分析をはじめ最先端の経済理論を学ぶ。中国社会科学院研究員、同大学院教授を経て、現職。代表作は公共選択の理論を中国の移行期経済の分析に応用した『漸進改革的政治経済学分析』(上海遠東出版社、1996年)。ポスト文革世代をリードする経済学者の一人。

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