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国有商業銀行のリスク管理と改革の方向

発表時間:2012-09-24 | 字体拡大 | 字体縮小

著者:夏斌 張承恵 | 出所:

  1994年以降、4大国有銀行は専業銀行から商業銀行へと転換された。一連の銀行改革を経て、4大国有銀行は大きく変貌し、銀行全体の質も大きく向上したが、現在直面している問題を無視することはできない。銀行の所有権制度改革には実質的な進展が見られず、制度上の欠陥が原因となって銀行のコーポレート・ガバナンスの抜本的な改善はなされていない。経営管理面、特にリスクの内部管理には大きな改善の余地があり、累積した大量の不良債権を有効に処理できていないため、潜在的なリスクも大きい。  

  4大国有商業銀行の改革は中国の金融改革の鍵を握っている。4大銀行改革の最優先課題はこれまでに積み上げられてきた課題を解消すると同時に、世界の一流銀行の基準に沿って銀行の様々な制度を全面的に構築することである。

  1.加速すべき国有商業銀行改革   

  4大国有商業銀行は、中国の銀行システムの軸としてずっと主導的な地位を保ち続け、経済発展を大きく支えてきた。

  1994年から、4大国有銀行は商業銀行への転換という困難な道のりを歩み始めた。改革によって4大国有銀行は大きな変化を遂げ、10年前に比べると、管理能力、経営水準、サービスの質が大きく向上し、不良債権比率も低下するなど、銀行全体の質はかなり改善した。

  しかし、現在も銀行が直面する重要な問題がなくなったわけではない。特に、銀行の所有権制度改革は実質的な進展を見せておらず、制度上の欠陥があるために、銀行のコーポレート・ガバナンスは根本的な改善を実現できていない。経営管理面、特にリスク管理には改善の余地が大きく残されている上に、累積した大量の不良債権が有効に処理されておらず、潜在的なリスクも高い。

  銀行危機が常に金融危機の主因であることはすでに海外の多くの教訓が示している。一方、銀行が金融危機の発端とならなかった場合でも、金融危機が発生した後には銀行の経営は確実に悪化する。このような形で生じた銀行危機がもともとの金融危機を悪化させることにも注意を払わなければならない。

  前述したように、4大国有商業銀行は、中国の銀行システムにおいて重要な地位を占めているため、その経営状況は中国の金融システムの安定性を直接左右する。したがって、中国の金融システムの安定性を確保するためにも、まず国有商業銀行の問題点が解決されなければならない。中国がWTO加盟の際に行った合意事項に基づけば、2006年までに中国は外資系銀行に対し地域、所有権、経営・設立の形態(拠点の設立および許可証の発行)に関する制限を撤廃し、国内銀行と同じような待遇を与えなければならない。これは外資系銀行が何の障害もなしに国内銀行と競争できるようになることを意味する。改革が加速されなければ、中国系銀行はさらに競争力を失うことになる。

  不良債権比率、自己資本比率など銀行の健全性を測る指標を見ると、4大銀行はかなり脆弱であることが判る。加えて、今後外資系銀行が大量に参入する予定を控えている。このような状況下で、2005年以降、何らかの原因である銀行から預金の大量流出が起こった場合、ほかの銀行にも取りつけ騒ぎが広がり、最終的には金融恐慌へとつながってしまう可能性がある。現在の国有商業銀行の状況を見れば、これは決してありえないことではない。

  2006年までにこれらの問題に関する透明かつ有効な解決案を示せなければ、中国の金融業界の将来を楽観視することはできない。国や民族の利益を損なわないためにも、他の国の銀行危機の教訓を真剣に汲み取り、4大銀行の改革を加速させる必要がある。金融業の国際競争力を高めることは、将来起こり得る金融危機の予防と解消に極めて重要な意味をもつ。そして、4大国有商業銀行の改革は、中国の金融業の改革と開放の鍵を握っているのである。

  すなわち、4大銀行改革は速やかに実行されなければならない問題であり、これを通じて現時点で存在する大きな金融リスクをできるだけ早く解消しなければならない。また、各種改革を通じて4大銀行を世界の一流銀行と競争できる銀行にしなければならない。逆に、4大銀行改革を実行できなければ、その他の改革によってどのような良い制度を実現できたとしても、また、どのような優秀な経営者が着任したとしても、実現できるのは不良債権の新規発生の抑制にとどまり、短期間に資産の質を高めるという目標を達成することは難しい。そして、当面の4大銀行改革の中心は、これまでに積みあがった課題を解消することにある。

  2.歴史的な課題の解決   

  1)まず、必要なことはバーゼル協定で示された監督・管理の基準をそのまま適用するのではなく、改革を実現するために必要な基準に基づいて4大銀行の資産と損失を算出できる、正確かつ徹底的な精査である。これは歴史的な課題を解決するための策を考慮するために最も基本的かつ重要な事項である。銀行の資産と損失を計算する際には、貸出業務による損失であるか貸出業務以外の業務による損失であるか、国内部門の損失であるか海外部門の損失であるか、貸借対照表に記載されている損失であるか貸借対照表には記載されていないオフバランスの損失であるか、さらには貸倒準備金の積立はいくらであるか、といった事項を含めて行われなければならない。もちろん、実際に存在しない資本を資本として計上してはならない。また、償却していない不良債権の損失見込み額と非貸出資産の損失額ができるだけ正確に反映されるように考慮しなければならない。さらに、TierⅠ比率と自己資本比率を計算する際には、貸倒準備金から貸出と非貸出による損失を差し引いた残高を帳簿上の資本から除かなければならない。当然のことながら、リスク資産からは引当の不足分に相当する額を引かなければならない。

  これに基づいて計算すれば、現在の銀行の自己資本比率とTierⅠ比率は、発表されている数字より悪くなることが確実視される。しかし、これこそがバーゼル協定の理念に基づいた監督・管理であり、世界の一流銀行の健全な経営の精神である。

  2)4大銀行がリスクを解消する上で明確な目標を定めるべきである。ここ数年の監督・管理部門の努力により、4大銀行のリスクの所在と発展の趨勢が明らかになってきている。また、外資銀行の流入時期もはっきりしてきた。しかし、我々はリスクを低く見積もってはならないし、逆に自信を失ってもいけない。

  リスクの解消が行われるためには、まず、実行計画を全体として整合性の取れたものであるように配慮する必要がある。4大銀行のリスク解消の問題は統一的に考えるべきであり、他への影響を考慮せずに個別のケースだけを検討することは望ましくない。つまり、一つの政策を決定する時には、次の政策への影響を常に考えなければならない。4大銀行のリスク解消策を考えるに際しては、ほかの100社以上の株式制銀行、3万社以上の農村信用社・証券会社・保険会社が持っている既存のリスクに対する政府の負担も考えなければならない。4大銀行の上場を考える時には、国内金融業者への影響や、政府が過半数の株式を保有する株主、あるいは相対的な大株主になるかどうか、金融全体を左右する中核的な商業銀行への影響も考えなければならない。これは今後の中国の金融システムの安定化にとって必要である。

  次に必要なことは、情報を公開して安定的な信頼を得ることである。すでに国内外では4大銀行をめぐる不利な言論がたくさん出ているため、解決案はなるべく早く出すことが必要である。発表が遅くなれば、4大銀行の不良債権に対する国内外の行き過ぎた疑念が一層深まる。また、解決案は透明性の高いものであればあるほど良い。不透明な解決策を発表した場合、国内外のマスコミや世論が銀行に対する国民の不信感を高める。これはSARSへの対処法と似ている。SARSの発生時には初期段階の情報が不透明であったため、その後の作業が受動的になってしまった。

  三つ目に必要なことは、状況に応じて柔軟な対処を行うことである。4大銀行を全体的に見れば不良債権の問題が深刻であるが、個別に見れば、想像されるほど酷い状況にはない銀行もある。このため、解決案は、それぞれの銀行の状況に応じて制定すべきであり、すべてを一つの勘定に入れて計算すべきではない。また、原則に執心したスローガンやおおざっぱな案を出してはならない。

  四つ目に必要なことは、様々なルートから資金を調達することでリスクの解消を図ることである。リスクを解消するためには、最終的に誰かがそのコストを負担しなければならない。4大銀行はそれぞれのリスクの度合いや潜在力が異なるため、それぞれの状況に応じて、利用できるすべての市場メカニズムを利用することが望ましい。例えば、政府による公的資金の注入のほかにも、株式市場からの資金調達、債券発行による資金調達、外国投資家による投資をひきつける努力、さらには銀行自身の経営努力による資金の捻出など、様々な方法で資金を集めることも可能であろう。このような形でなるべく財政負担を減らすことも考慮されなければならない。

  リスク解消の見通しについて議論をまとめると以下のようになる。4大銀行の改革に関しては、上場できる銀行は上場させ、分割しなければならない銀行は分割し、資金を注入しなければならない銀行に資金を注入するといった個別の状況に応じた対応が必要になる。対応を行うためには、現在の状況を精査することでリスクを詳細に測定し、4大銀行それぞれの状況に応じ、かつ全体として整合性の取れた案を出さなければならない。そして、2005年末までには不良債権リスクを基本的に解消させることが望まれる。

  3)銀行は再編を経て上場を準備していることからみても、現時点では、国際会計基準に沿って財務諸表を作成し、十分な情報開示を行う必要がある。国際会計基準は世界の多くの取引所に広く受け入れられている。国際会計基準の採用は、企業が国際資本市場から資金を調達するための大切な要件である。上場を予定している銀行は、国際的に知名度の高い会計事務所に依頼し、国際会計基準に基づいて銀行の各種財務統計を全面的に調整、評価しなおすべきである。

  3.世界の一流銀行に倣った銀行システムの全面構築   

  銀行の総合改革の具体的項目は多い。しかし、内容を要約すると、(1)コーポレート・ガバナンス、(2)組織管理、(3)業務運営、の3つのカテゴリに絞られる。中国の銀行の場合、どのカテゴリにしても世界の一流銀行に比べて大きな開きがあり、改善と制度の再建が必要である。以下では、それぞれの要点について述べる。

1)有効なコーポレート・ガバナンスを構築し、出資者と経営者の関係を明確化し、経営者を監督する有効なインセンティブ・メカニズムを作る。   

  このためにはまず、経営者の「官本位」の考えを徹底的に打破することを制度面から保証しなければならない。現在にいたって、実行のための条件が整ってきた。中国の国情から考えると、4大銀行のトップあるいはこれに準ずる銀行トップに行政側の人間を充てることは避けられない。しかし、それ以外の役職については、行政担当者を充てるのではなく民間から招聘することを明文化すべきである。経営者は企業家、銀行家であり官僚でないこと、経営者の第一の目標が出資者のための利潤追求であることを明確にしなければならない。さらに、経営者の過失によって巨額の損失がでてしまった場合は、経営者責任を追及し、銀行が儲からなければ経営者を退任させるメカニズムを構築しなければならない。

  株式会社に再編された会社は「会社法」に基づいてコーポレート・ガバナンスを構築するほか、政府出資が残っている法人も、取締役会あるいは監査役会を設置する必要がある。取締役会あるいは監査役会は、所有者の権限を行使し、銀行に対する最終的な実質的なコントロールを行う。一方、取締役会あるいは監査役会の指導・監督を行うためには、銀行の発展戦略の制定、銀行の上層管理者の招聘・解任や業績評価・報酬の決定、経営目標の実現を確保するために経営者に対して行う指導・監督、経営者による有効な内部コントロール制度の構築・内部管理環境の改善、有効なリスクコントロールを行うことに対する指導・監督、銀行の重大な経営計画および政策決定の審査・認可、経営者による報告の審査・認可、内部監査部門の指導・検査、などが必要となる。

  取締役会あるいは監査役会のメンバーについていえば、国の利益を代表する部門の代表のほか、専門知識を備えてかつ実際に経営経験をもち、さらには市場で一定の評価を得ている優秀な専門家も入れるべきである。また、取締役会あるいは監査役会が内部者にコントロールされず本当に機能させるためには、まず、管理者の兼任を認めないことが必要である。そして、半数以上のメンバーを外部の優秀な専門家が占めるように取り計らわなければならない。次に、取締役会あるいは監査役会が推薦、免職を決めた銀行のトップ経営者の人事は国務院に報告する義務をもたせるべきである。さらに、100%国有の銀行については取締役会あるいは監査役会は重大な経営事項を国務院に直接報告する義務を持たせるべきであろう。

  2)有効な組織管理体制の構築   

  この目的を実現するためには、以下に挙げる4つの事項が行われる必要がある。

  (1)市場と効率の原則に基づいて、さらに内部組織の調整と簡略化を行う。
  (2)年功に応じて補償金を支払う早期退職制度を活かして、余剰人員問題を解決する。
  (3)各レベルの人員の業績評価システムと相応のインセンティブ・メカニズムを全面的に構築する。
  (4)市場化された人的資源管理システムと研修システムを構築する。

  3) 世界の一流銀行の基準を参考に、貸出、会計、製品開発、減価財務、内部監査など業務運営の手順を全面的に見直す。   

  具体的には、各銀行がすでに制定したWTO加盟後の発展戦略を総括して、従来の業務の流れと組織構成を見直した上で、全体および各部門の内部コスト、利益計算システム、業績評価システムを構築し、信用リスク・金利リスク・運用リスクなどを含めたリスクに対する科学的な管理体制とメカニズムを構築する必要がある。国際会計基準に基づいて、全面的に会計基準を改定し、銀行の自己資本比率とTierⅠ比率を高めた上で、バーゼル委員会の要求に基づいてリアルタイムかつ正確に情報を開示し、銀行の透明性を高めなければならない。

  夏斌  Xia Bin

  1951生まれ。1984年人民銀行研究生院(大学院)卒業、修士。1985~1992年の期間、中国人民銀行金融研究所にて部副主任、副所長などを歴任。1993年中国証券監督管理委員会交易部主任、深セン交易所総経理などを経て、1996年より中国人民銀行にて政策研究室副主任、非銀行金融機構監督司司長を務める。2002年9月より国務院発展研究センター金融研究所所長。主要著書は『中国九十年代的貨幣政策』、『中国貨幣供給理論的実証研究』などがある。

  張承恵  Zhang Cheng Hui

1957年上海市生まれ。中国社会科学院研究員卒、経済学博士。南京市冶金局、中国金融学院教研室主任を経て、1993年より国務院発展研究センターマクロ部にて研究員、研究室副主任などを歴任。1998年より国務院発展研究センター技術経済研究部副部長。

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