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中国経済の成長パターンの転換と成長の持続可能性

発表時間:2012-09-14 | 字体拡大 | 字体縮小

著者:王小魯 樊綱 劉鵬 | 出所:中国経済改革研究基金会国民経済研究所

  本稿は、中国経済の成長パターンの転換について分析した。分析の結果から、改革開放以降、中国の全要素生産性(TFP)が上昇傾向にあり、特に最近10年間の上昇率が年率約3.6%に達していることが分かった。また、生産性の上昇の源泉は、資源の再配分やインセンティブ・メカニズムの改善と対外開放など外部に由来する効率向上から、徐々に人的資本の外部効果、科学技術の研究開発とインフラの高度化にシフトしつつある。実証分析の結果によれば、行政管理コストの膨張と、消費の対GDP比の持続的な低下は経済成長に悪影響を与えている。これら悪影響を克服することができれば、中国経済は2008~2020年の間に年平均9%以上の成長率を維持することができると考える。

  一、はじめに

  本稿では、中国の経済成長パターンの変化とそれに影響をもたらした要因を分析し、その結果を踏まえて、2020年までの中国の経済成長の持続可能性について考察する。

  1978年の改革開放以降、中国経済は30年にわたり高い成長を続けてきた。1979~2008年のGDP(国内総生産)成長率は年平均9.8%で、そのうち2006~07年の成長率は約12%に達した。この30年間、中国の経済規模はロシア、カナダ、イタリア、フランス、イギリス、そしてドイツをも追い抜き、世界第三の経済大国になった。中国の一人当たりGDPの水準は今でも決して高くはないが、改革開放前の220ドルの貧困国から、2,500ドルの中低所得国の水準にまで上昇している。購買力平価で測ると、中国のGDP規模と一人当たりGDPはいずれも前述の水準を上回る(これらのデータは中国国家統計局と世界銀行による。以下、出所が明示されていないデータについては、すべて国家統計局『中国統計年鑑』各年版、『新中国五十五年統計資料匯編1949-2004』よる)。

  中国の経済成長パターンは、長期にわたって「粗放型」という特徴を持っていた。大量の資本や、エネルギー、原材料、労働力の投入によって牽引され、技術進歩あるいは全要素生産性(TFP)の上昇からの経済成長への寄与度が低かったため、海外の一部の学者からは「持続不可能な成長」と言われた(Krugman[1994], Young[2000])。

  近年の経済成長は、高貯蓄、高投資、高い資源の投入、高い環境の代償、労働集約などの特徴を持っているほか、輸出への依存がますます高まっている点も特筆される。2007年の輸出は1兆2,180億ドル、純輸出は2,622億ドル(GDPの8%相当)に達している。

  米国経済の低貯蓄、高負債、高消費、高貿易赤字という特徴とは対照的に、中国経済は高貯蓄で高投資を支え、そして大量の純輸出で低消費による内需不足を補い、さらに巨額の貿易黒字によってもたらされる潤沢な外貨準備で米国の外部資金調達を支えている。米中両国は、この独特な方法でこれまでの数年間において世界経済の一つの特徴となる相互補完を実現してきた。

  2008年、ちょうど中国経済の成長パターンに一連の変化の兆しが現われた時(国内外の学者の中国経済成長のルイス転換点という問題に関する議論を参照。例えば、蔡昉[2007], Garnaut[2006])、米国で深刻な金融危機が勃発した。この危機は欧州やその他の国に急速に波及し、これら国の実体経済に深刻な影響を与えた。世界市場が萎縮し始めている中、欧米向けの輸出大国である中国は、経済成長を支える重要な柱である輸出産業が真っ先に困難に見舞われた。この状況が中国の経済成長に実質的な影響をもたらすことは必至である。米国が見舞われた金融危機の根源はその巨額な負債、大量の消費というモデルにあるとすれば、中国が今後直面する主な困難は内需不足と輸出への過度の依存であると言える。

  われわれは、本稿において、次のような疑問に答えたい。中国の経済成長パターンは変化しているのか。この変化に影響を与える主な要因は何なのか。今後の10年間あるいはさらに長い期間において中国経済は持続的な高成長を維持することができるのか。高成長を保つにはどのような政策調整を行わなければならないのか。

  二、経済成長の寄与要因とその変化の傾向

  第二節では、経済成長に対する生産要素の寄与、生産性の上昇に影響する要因の働きおよびその変化の傾向について簡単に議論する。今後の経済成長はこれら要因の変化の動向に左右される。ほかの経済成長に関する研究との違いは、われわれの研究は、一般的な生産要素の寄与に限らず、体制改革や、構造変化といった関連要因が経済成長に与える影響を非常に重視しており、これらも含めて全面的に考察している点である。

  1.資本形成

  中国は過去30年間に高い貯蓄率と資本形成率を維持してきた。資本形成率(対GDP比)は1980~90年代に35%前後で推移していたが、近年では42%前後に上昇している。

  われわれは、国家統計局の過去50数年の全国固定資産投資のデータに基づいて、資本ストック(不変価格)を推計した。その値は、改革前(1952~1978年)に年平均9.3%、1979~1998年に年平均10.0%、1999~2007年に年平均13.5%と、加速度的に増加している。急速な資本形成は、主に高貯蓄・高投資の結果であるが、外資も一定の役割を果たした。高い資本形成率は、これまでの中国の経済成長を支えてきた最も重要な要因のひとつである。世界的金融危機の影響で、資本増加率は今後の数年間に低下する可能性が高いが、高貯蓄モデルは短期的に変わることがないため、2008~2020年の年平均の資本増加率は引き続き13%前後に維持されると推測する。

  2.労働力と人的資本

  改革開放に転じてから、安価な非熟練農村労働力が大量に都市の工業、サービス業部門に移転し、中国の経済成長の主要原動力のひとつとなった。しかし、近年、労働力の増勢が鈍化しており、平均教育水準が上昇し、賃金と社会保障コストが上昇している一方、産業部門では非熟練労働力に対する需要が低下し、専門的な技術者に対する需要が増大している。これらの要因は以前の状況を変えつつあり、経済における質の低い労働力の重要度が低下する一方、人的資本の重要度が上昇していることを意味する。

  本稿では、ルーカス(Lucas[1988])の概念を用い、人的資本を、教育水準によって質が決められる有効労働力と定義する。このため、人的資本のストックは、一定の教育を受けた労働力の総量と彼らの受けた教育の年限の積に等しいということになる。計算結果によると、1978年の中国の労働年齢人口(在学生を除く)の平均教育年限は3.9年で、2007年は7.5年である。労働力の教育水準は著しく高まっているが、労働力の数量の伸びが緩やかであるため、人的資本ストックの増加率も低下しており、1979~1988年の年平均6.4%から、1999~2007年のわずか2.5%になった。今後の数年間において、人的資本は、職業教育の拡充と農村の9年義務教育の一層の普及により増加するため、2008~2020年の増加率は、教育に対する政府の支援度合いにもよるが、1.5~2%になる可能性がある。

  3.市場化改革

  計画経済から市場経済への転換という改革は過去30年間の中国経済の高成長と急速な発展に決定的な役割を果たしている。なかでも非国有経済の発展の役割が特に重要である。市場化は、資源配分とインセンティブ・メカニズムの改善を通じて効率の向上を促進する。われわれは、2000年より、中国の年次省別市場化指数を作成した(樊綱・王小魯・朱恒鵬、各年版)が、残念ながらそれ以前の分についてはデータが入手できない。今回の研究において、われわれは、工業総生産に占める非国有経済の割合を市場化の度合いの近似的な代替指標として使用し、統計の範囲が異なるデータ(1998年以降、売上高500万元以下の中小企業は統計の対象外になった)や、問題がある年のデータについては、中国経済センサスなどのデータに基づいて推計・修正した。修正後のデータによると、1978年の工業総生産に占める非国有経済の割合は22%であったが、2007年には72%に上昇した。この割合はすでに高い水準にあり、今後、上昇の速度は鈍くなり、2020年には約10ポイント上昇し、82%になると予想している。

  4.都市化

  改革開放以降、特に90年代以降、都市化は急速に進展している。1978年の都市化率(総人口に占める都市部人口の割合)はわずか18%であったが、2007年に45%に上昇した。これは、約3.5億人の農村人口が移動または農村の都市化という方法を通じて、都市部人口になったことを意味する。農村人口は、都市部の工業とサービス業において急増する労働力需要への主な供給源となった。さらに労働力が生産性の低い農業から、比較的生産性の高い都市部の非農業に移転することは、資源配分の効率を改善し、中国の生産性向上の重要な源泉にもなった。今後、都市化は引き続き進展するだろう。しかし、国際金融危機に付随する影響やほかの要因を考えると、今後数年間は、都市化の速度も影響を受けることになり、都市化率は過去10年間の年平均1.3ポイントの上昇から、0.9ポイントの上昇に低下し、2020年に約57%になると予想する。

  5.対外貿易

  これまでの中国の経済成長パターンのもうひとつの大きな特徴として「輸出主導」が挙げられる。対外貿易依存度(輸出入額/GDP)は1978年の9.7%から、2007年の66.2%に急速に上昇した。経済理論が示すように、対外貿易は比較優位を発揮させ、生産性を向上させると同時に、技術移転を促進し、さらに国際競争を通じて効率を向上させることができる。しかし、中国の貿易依存度はすでに高い水準にあり、長期的に元高期待が強く、さらに現状の世界的な金融危機による中国の輸出への影響を考えると、貿易依存度は今後大きく低下する可能性がある。例えば2020年に約56%に低下すれば、中国の経済成長に一定の影響を与える。

  6.外資

  海外からの直接投資(香港・マカオ・台湾からの直接投資を含む)は中国の資本形成のもうひとつの源泉である。1990年の直接投資受入額は35億ドルであったが、2007年に835億ドルに増加した。現在、中国は世界で最大の直接投資受入国のひとつである。一部の研究によれば、外資系企業の生産性は地場企業より高いため、生産性の向上に寄与しているという。資本ストックに占める外資の割合は10%を超えることがなく、また海外からの直接投資の伸び率も90年代の30%超から過去10年間の7~8%に低下したことが分かった。われわれは、今後、外資の伸び率は引き続き国内資本の伸び率を下回り、2008~2020年の間に資本ストックに占める外資の割合は年平均0.1ポイントの速度で徐々に低下すると予想する。

  7.インフラストラクチャー

  良好なインフラは生産要素の使用効率を改善し、ひいては生産性を向上させることができる。改革の期間中、特に過去の10年間において、インフラは急速に改善している。道路の総延長距離は1978年に87万kmしかなかったが、1998年に128万km、さらに2007年に358万kmに伸びた。道路の質も大きく改善され、高速道路は1990年に500kmだけであったが、2007年に5.4万kmに増えた。鉄道も量と質の面で著しい変化が見られ、総営業距離は1978年の5.2万kmから2007年の7.8万kmに増えたほか、運行速度が速くなり、輸送量が増えた。データを比較可能にするため、輸送能力に基づいて異なる等級の道路と鉄道の距離を標準道路総延長に換算した上、その合計の人口に対する比率を計算した。このように得られた標準道路の対人口比率は、1978年に8.99km/万人、2007年に15.65km/万人である。今後、道路の総延長の拡張は鈍化するが、等級は引き続き向上するほか、鉄道の総延長と輸送力も引き続き増大し、標準道路の対人口比率は、毎年0.4km/万人上昇し、2020年には20.85km/万人に達すると予想する。

  8.科学技術の研究開発と革新

  科学技術の研究活動と資金投入は、改革前と改革の初期に主に政府主導で行われたが、研究レベルは低く、経済成長への著しい寄与も見られなかった。しかし、ここ十数年間、研究開発活動が活発化している。中国の研究開発費の対GDP比は、先進国の約3%から大きくかけ離れているが、ここ10年間で0.64%から1.49%に上昇しており、認可特許数も年間5万件から35万件に増加した。さらに、科学技術の研究開発は政府主導から企業主導にシフトしつつある。研究開発費に占める企業の割合は、1996年の42%から2006年の69%に上昇している。今後、研究開発支出の対GDP比率は引き続き上昇し、2020年に3%に達することが可能だと考える。

  本稿では、研究開発への投入によって累積された科学技術資本のストックを計算し、生産性向上への寄与度を分析した。このストックの計数は、有形のモノの資本ではなく、知識と技術の累積を反映している。

  9.最終消費

  これまでの30年間、高貯蓄率は中国の工業化、都市化、インフラへの大規模な投資を支えてきた。一方で、GDPに占める最終消費の割合は低下の一途をたどっており、特に直近の7年間、2000年の62%から2007年の49%に落ち込み、そのうちGDPに占める個人消費の割合は46%から35%に低下した。これによって、経済成長を支える二つの内需の要因のひとつが力を失ってしまった。投資需要だけでは有効需要を支え続けることができないため、外需への依存がますます大きくなっている。2007年の貿易黒字はGDPの8%に達し、2008年6月末の外貨準備は1.8兆ドルとなっているが、ドル安によって大幅に目減りしている。一方、国内銀行には巨額な預金が蓄積され、預貸比率は2000年の80%から2007年の67%へと低下の一途をたどっており、資金の利用効率が低いことを映し出している。

  本稿では、総需要と総供給の均衡については分析しないが、最終消費率の変動が経済効率さらには経済成長に与え得る影響について検証する。現在の趨勢と国際金融危機の影響から考えると、今後、最終消費率は引き続き低下する可能性が高い。しかし、社会保障制度と公共サービス体制の整備、所得格差の縮小、所得分配(第一次分配)の改善などの政策は、消費率の向上に役立つ。これには比較的長い時間がかかるかもしれないが、内需の拡大、特に消費需要の喚起は、世界金融危機が中国の輸出に与えるマイナスの影響の軽減にとって非常に重要である。

  10.政府の行政管理コスト

  中国の政治体制改革の遅れや不完全な行政管理制度のため、政府の行政管理コストが膨らむ一方で、公共資源の使用効率が低く、腐敗が蔓延している。多くの事例が示すように、このような状況は経済効率に深刻な影響を与えている。財政支出の中の行政管理費の対GDP比をみると、1978年は1.35%だったが、2000年に1.80%、2006年に2.67%に上昇した。

  三、成長会計と予測

  本節では、成長会計を使って異なる時期の経済成長に対する生産要素の寄与度を分解した上、全要素生産性を技術進歩、制度変化、構造変化などいくつかの要因の影響に分解する(表1)。これに基づいて、2008~2020年の経済成長率を予測する。

  表1 成長会計  

   

 

  (注)1.寄与要因の増加率は瞬間増加率で、合計成長率(推計値と実績値)は年率換算のため、前者の合計は後者に等しくない。要因の寄与度とTFPの寄与度の合計も年率換算で、二者と合計成長率との関係は、足し算ではなく、指数の積の関係である。
2. 外資のマイナス寄与は外資比率の低下によるもので、行政コストのプラス寄与も比率の低下による。以下、これに同じ。
(出所)国家統計局などにより筆者推計・作成

  以上の推計から、次の結果が得られた。

  第一に、資本は引き続き経済成長にとって最も重要な役割を果たしており、1999~2007年の間の寄与度は約4ポイントに達しているが、人的資本の成長への寄与は無視できない。人的資本は改革初期の寄与度が比較的高かったが、最近は低くなっている。これは、改革初期に文化大革命期に破壊された正規の教育が復活したため、人的資本の短期的な急増がもたらされたためである。また、人的資本の基礎である労働力の数量は初期に比較的大きく増加していたが、最近ではその伸びが明らかに鈍化している。しかし、人的資本の質の上昇(教育水準の上昇)は、その大半を補った。また、産業構造は単純な労働集約型から、より人的資本集約型に移行しつつある。今後、人的資本の質の向上は経済成長に一層大きく寄与すると考える。これは投入の増加ではあるが、投入量の単純な拡大から投入の質の向上への転換を反映している。

  第二に、全要素生産性(TFP)の向上は成長率の上昇にとってますます重要になっており、1999~2007年に成長率への寄与度は3.6ポイントで、改革初期より1ポイント上昇した。この点は、ほかの研究の結論と一致している(例えば、Jefferson, Rawshk, and Zhang[2007])。一方、われわれの推計結果は中国の経済成長が「生産性の上昇がなく投入によってもたらされる」ため、「持続不可能だ」という断定(Young[2000], Krugman[1994])を否定した。このうち、人的資本の外部効果の寄与度はここ20年間上昇しており、1999~2007年に1ポイント超のTFPの増加をもたらした。人的資本の数量的な拡大の直接寄与と合わせると、経済成長への寄与度は約3ポイントになる。科学技術の研究開発の投入規模はまだ小さいが、伸びが大きい。科学技術資本の加速度的な増加は経済成長に影響を与えつつある。これは将来の科学技術革新の加速につながるだろう。

  第三に、市場化改革と都市化の進展は、これまでの30年間改革期に生産性が向上した大きな要因で、大半の時期において二者の合計した寄与度は1ポイント超に達している。二者は主に、要素配分とインセンティブ・メカニズムの改善を通じてTFPを押し上げている。外資による直接投資と貿易は二つの外部的な要因であり、1980年代と90年代にTFPをそれぞれ0.6ポイント、0.7ポイント押し上げたが、外資の貢献の低下により、近年寄与度が低下した。

  第四に、インフラ改善は近年において大きな役割を果たしており、TFPへの寄与度は1999~2007年の間にそれまでの1%から2.57%に急上昇している。

  以上の4点は、経済成長の源泉に二つの大きな変化が起きていることを示している。ひとつは、投入が引き続き大きく増加していると同時に、生産性の寄与度が上昇していることである。もうひとつは、生産性の上昇の源泉は、資源の再配分やインセンティブ・メカニズムの改善、対外開放など外部に由来する効率向上から、徐々に人的資本の外部効果、科学技術の研究開発とインフラの高度化にシフトしていることである。このことは、経済はより持続可能な成長軌道に転換しつつあることを意味する。

  最後に、前述のようなプラス要因がある一方で、あるマイナスの要因も深刻化していることも無視できない。政府管理コストの膨張である。これによる生産性へのマイナスの影響は、改革初期に0.2%に満たなかったが、最近では1.7%にまで上昇している。これは、毎年4,000億元のGDPの減少を意味する。

  以上の成長会計の結果に基づき、われわれは今後の経済成長(2008~2020年)について予測した。生産性を左右する多くの要因を取り入れたため、この予測の精度は、単純に投入の増加あるいはTFPに基づく予測より高いことを期待している。ここで、われわれは二つのシナリオを考えた。シナリオⅠは、それぞれの寄与の要因の現時点の変化傾向がそのまま続き、さらに現在の国際金融危機のもたらしうる影響など最も可能性が高い状況に基づいて適度に調整したものである。シナリオⅡは、三つの楽観的だが可能性の高い仮定を置き、その他の条件は変わらないとする(影響の要因の変化は表2を参照)。

  一つ目の仮定は、将来の政治体制改革により、政府管理コストの増加傾向が抑制され、上昇しないことである。二つ目の仮定は、教育の条件の急速な改善である。特に農村の9年間義務教育、職業教育、社会人職業訓練などにより、人的資本の将来の増加率がシナリオⅠの1.5%から2.0%に上昇し、一人当たりの教育年限で見た教育水準も2020年にシナリオⅠより0.6年増える。三つ目の仮定は、社会保障と公共サービス制度の改善策と、所得格差拡大の抑制策を通じて、最終消費率の低下が歯止められ、よりバランスの取れた経済成長が達成できることである。

  表2 異なる期間の要因の増加率と各要因の変化

   

  (出所)国家統計局より推計、作成。2008~2020年は二つのシナリオの推計値。

  以上に基づき、われわれは2008~2020年の経済成長率を予測した。結果は表3に示されている通りである。

  表3 今後の成長の予想:二つのシナリオ

    

  (注)表1参照。
(出所)表1に同じ

  この二つのシナリオの結果は大きく異なっている。シナリオⅠでは、経済成長率は最近の約10%から2008~2020年に年平均約6.7%に低下する。科学技術進歩の寄与度の過小評価の可能性を考えると、約7%とすることもできる。成長率の低下は、効率の向上をもたらした外部的な要因の剥落、改革による効率向上の逓減、世界金融危機の影響などを反映して、全要素生産性の寄与度が2%以下の水準に低下することによる。成長率が逓減の段階にあるため、2020年の成長率は5%以下になる可能性があり、1978年以降続いてきた高成長は2020年に終焉を迎えるかもしれない。

  シナリオⅡでは、経済成長率は2008~2020年の間に引き続き約9.3%を維持し、そのうちTFPの寄与度は約4%になる。これには、政府管理体制改革による行政管理コストの抑制、教育の一層の改善、貯蓄-消費のバランスの回復などが必要である。もし科学技術進歩が加速すれば、10%近い成長率になる可能性も否めない。これはシナリオⅠと比べてより健全で、より持続可能な成長パターンである。

  本稿では、経済成長に影響を与える二つの要因について分析していない。すなわち将来のエネルギー供給と環境問題の経済成長に対する制約である。この二つの問題を詳しく分析するには専門的な研究が必要で、今回の研究対象ではない。しかし、以下の2点を指摘しておかなければならない。

  第一に、国内外では、風力、ソーラー、原子力などの代替エネルギーの開発と省エネ技術に関しては大きな成果を上げており、一部の技術は徐々に成熟し、コストが低下している。中国もこれらの分野について多くの前向きな措置を採っており、すでに効果も現われ始めている。第二に、環境保護はコストを伴うが、多くの環境保護の技術や政策措置は経済的に実行可能であり、その経済の外部性を含めると、かなりの部分の環境保護コストを相殺することができる。

  このため、政策が適切で、合理的な技術方針とインセンティブ・メカニズムがあれば、エネルギーと環境の問題は解決することができ、将来の経済成長の大きな足かせになることがなく、持続可能な発展は実現できるのである。

  また、本稿は、最終消費の変化が成長に与える影響について分析したが、効率面の影響の角度から分析しただけであり、需要の制約による影響を考慮していない。後者も考慮に入れれば、特に国際金融危機の影響の中、最終消費率の一層の低下が経済成長に与える影響はより大きくなり、最終消費率を上昇させる方策が求められている。

  四、結論

  本稿においてわれわれは、中国の経済成長パターンの転換について分析し、これを踏まえて、2020年までの成長の持続可能性について予測した。また、ルーカス成長モデルに基づいて、生産性に影響を与える制度や、構造、技術進歩などの変数についても検証した。実証が示すように、改革開放以降、中国のTFPは上昇の傾向にあり、直近の約10年では3.6%前後になっている。そのうち、改革期間全体を通して、市場化と都市化による効率向上の生産性向上への寄与度は1ポイント以上、人的資本の外部効果と科学技術の研究開発の加速による寄与度は1ポイント以上、インフラの改善による寄与度は2ポイント以上である。貿易と外資の効果は徐々に薄らいでいる。これらのことは、TFP上昇の源泉が変化しており、外部要因による効率上昇が低下している一方、技術進歩と内部要因による効率改善の要因が上昇していることを示している。

  投入の増加については、資本の増加は依然として経済成長に重要な役割を果たしており、寄与度も上昇している。その一方で、労働力による量的な拡大の寄与度が徐々に低下し、その代わりに、人的資本の質的な向上の寄与度が上昇している。これは、成長パターンの転換のもうひとつの側面を反映している。

  TFP成長にマイナスの影響を与える要因は二つある。ひとつは政府行政管理コストの膨張である。これは、行政管理における低効率や腐敗などの状況を反映したもので、TFPの上昇への阻害がますます大きくなっており、近年では-1.7ポイントにまで達している。もうひとつは、最終消費率の持続的な低下で、すでに臨界点に達しつつある。消費率の一層の低下は経済効率にマイナスの影響を与え、ひいては経済成長を妨げる。

  以上の成長会計の結果および各要因の変化傾向の分析に基づき、われわれは2008~2020年の経済成長率を予測した。現在の傾向のままで推移していくと、今後、要素投入による成長は労働力の伸びの鈍化に伴って低下し、これまで見られた外部要因による生産性の伸び(外資と貿易の効果)も低下しつつある。効率への市場化の寄与も徐々に弱まっている。これらの要因により、2008~2020年の年平均経済成長率が7%あるいはそれ以下に低下する可能性がある(シナリオⅠ)。1978年以降の高度経済成長は、この期間に終焉するかもしれない。その時期の中国の一人当たり所得は現在より倍増するが、先進国との間には依然として大きな開きがある。

  現在の世界金融危機は、今後しばらくの間、中国の経済成長に悪い影響をもたらすが、決定的なものではない。最終消費率の上昇を促進し、内需の拡大で外需の低下を補えば、中国はこの危機によるマイナスの影響を克服することができる。実際、今後中国経済が直面する挑戦は主に国内の問題である。

  シナリオⅡのように、政治体制改革を通じて政府効率を向上させ、公共サービスの改善と社会保障体制の健全化と所得分配の公平性の促進を通じて国内消費を拡大し、教育の改善を通じて人的資本の増加を促進すれば、中国経済は成長の制約をよりうまく克服でき、2008~2020年に年平均9%以上の成長率を維持しつつ、長期的で持続的かつ安定的な経済成長を実現することができる。

参考文献:

  中国語

  • 蔡昉 [2007]. 「中国経済発展的劉易斯転折点」,蔡昉主編『中国人口与労動問題報告No.8:劉易斯転折点及其政策挑戦』,社会科学文献出版社。
  • 樊綱、王小魯、朱恒鵬 [各年版]. 『中国市場化指数――各地区市場化相対進程報告』,経済科学出版社。
  • 国家統計局 [各年版]. 『中国統計年鑑』,中国統計出版社,北京。
  • 国家統計局 [2005]. 『新中国五十五年統計資料匯編:1949-2004』,中国統計出版社,北京。

  英語

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  • Garnaut, R. [2006]. "The Turning Point in China's Economic Development", in Garnau and Song (eds), The Turning Point in China's Economic Development, Asia Pacific Press at the Australian National University, Canberra.
  • Jefferson, G, T. Rawski, and Y. Zhang, [2007]. "Productivity Growth and Convergence Across China's Industrial Economy", paper presented in International Workshop on Chinese Productivity 2007, Tsinghua University.
  • Krugman, Paul. [1994]. "The Myth of Asia's Miracle", Foreign Affairs, November/ December, Vol 73, Number 6.
  • Lewis, W. Arthur,[1954]. ‘Economic Development with Unlimited Supplies of Labour', The Manchester School, 22, May: 139-92.
  • Lucas, R. E., [1988]. "On the Mechanics of Economic Development", Journal of Monetary Economics, 22, 3-42.
  • Young, A., [2000]. "Gold into Base Metals: Productivity Growth in the Peoples Republic of China during the Reform Period", NBER Working Paper W7856, National Bureau of Economic Research, Cambridge.

  (出所)中国経済改革研究基金会国民経済研究所

  ※和訳の掲載にあたり先方の許可を頂いている。なお、実証分析のテクニカルな部分については割愛した。

  王小魯  Wang Xiao Lu

  中国経済改革研究基金会国民経済研究所副所長。国家経済体制改革委員会中国経済体制改革研究所発展研究室主任、オーストラリア国立大学ビジティングフェロー、国連大学高等研究所(東京)ビジティングフェローなどを経て、1998年より現職。専門はマクロ経済論と経済発展論。

  樊綱   Fan Gang

  中国経済改革研究基金会国民経済研究所所長。1953年北京生まれ。文化大革命中における農村への「下放」生活を経て、78年に河北大学経済学部に入学。82年に中国社会科学院の大学院に進み、88年に経済学博士号を取得。その間、米国の国民経済研究所(NBER)とハーバード大学に留学し、制度分析をはじめ最先端の経済理論を学ぶ。中国社会科学院研究員、同大学院教授を経て、現職。代表作は公共選択の理論を中国の移行期経済の分析に応用した『漸進改革的政治経済学分析』(上海遠東出版社、1996年)。ポスト文革世代をリードする経済学者の一人。

  劉鵬  Liu Peng

  商務部総合司

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